COLUMN 住まいのコラム
断熱・省エネ基準の大きな盲点
断熱・省エネ基準の大きな盲点
住まいとは「人生を楽しむための器」だとと考えますが、皆さまはいかがでしょうか?
また、少ないエネルギーで、楽しく快適な暮らしができればより良い住まいといえるでしょう。
現在、日本の断熱性能や省エネ性能の基準もその方向に大きく舵を切りつつあると思います。
前回のコラムでもご紹介しましたが、断熱基準は、飛躍的に今年の10月からレベルアップされることが予定されます。
ただ、その一方では「大きな盲点ともいえる要素」が置き去りにされていると思いますので、前回のコラムでもお話しましたが、今回、もう一度ご説明できればと思います。
その最大の要素とは、「気密性能」のことです。
気密性能=断熱性能と、両者ともに同レベルに大切です。
大きな違いは、断熱性能は机上の計算で出せますが、気密性能は実測が必要だということです。
現在の状況を自転車に例えて表現すると、前輪だけ高性能なタイヤを取り付けて、驚くことに、後ろのタイヤ自身を付け忘れてる、という感じなのです。まともに走ることができない状態と言っても過言ではないでしょう。
今回は、その理由をご紹介いたします。
過去には存在した気密性能の基準
実は、平成11年の省エネ基準では、気密性能(相当隙間面積のこと、以下C値という)の基準が存在しました。
北海道や東北エリアの基準は2.0c㎡/㎡以下、東京より以西エリアは5.0c㎡/㎡以下というものです。
この基準を超えると高気密住宅と銘打って広告されている建築業者も存在されていた記憶しています。住宅の性能について勉強された方はお分かりだと思いますが、決して高い基準ではありませんでした。
高気密住宅として銘打つには低いレベルだから誤解を避けるために、または、追随できない建築業者が出ることを避けるために無くした、など推察の域を出ておりません。
気密性能の試験方法
主に利用される方法は減圧法という方法で、建物内の空気(以下、内気という)を強制的に排気することにより建物内を負圧にして、結果、圧力差により建物の隙間から流入する気密層からの通気量と建物内外の圧力差を測定するという方法です。
単純に表現すると、建物内の空気を機械的に強制排気しようとすると、同時に外の空気(以下、外気という)を引っ張り込もうとしますが、その際、隙間が小さいもしくは少ないと外気は建物内に入りにくくなります。この空気の入り難さを測定していると思ってください。
例えば、キッチンの換気扇を回しているときに、窓を閉めていると、ボッーと大きな音がするだけであまり排気されていませんが、近くの窓を開けるとスッーとスムーズに排気されているという経験を誰しもされていると思いますが、あの原理です。
その結果、建物全体に散らばっている目には見えない隙間やその大きさの傾向、そして隙間全体を合計した総面積(総相当隙間面積という)などが、建物の内外の温度差の補正を掛けて、判明することになります。
C値とはc㎡/㎡という単位の通り、床面積1㎡あたりに換算して何c㎡の隙間が建物に存在するかという表現になり、総相当隙間面積/建物の床面積(実質床面積)で算出されます。
例えば、総相当隙間面積が240c㎡(15.5㎝角程度の隙間が建物全体で存在)で、実質床面積が120㎡であれば、
240c㎡/120㎡ ∴2.0c㎡/㎡(C値)となります。
建物の漏気(隙間風)は何故起こるの?
一般的に表現される「隙間風」は、何故起こるのでしょうか?
風と温度差がその大きな要因です。その為、温度差が大きな冬場がその影響を感じやすくなります。
風の影響とは、建物の外周部を通り過ぎる風は建物の周囲に負圧の空間をつくり、その結果、建物内の空気を吸い出そうとします。
室内から吸い出された空気を補うために、外から冬の冷たい空気を直接呼び込むことになります。
風の強い冬場には、特に大きな影響が出るということになります。
確かにそうだ、と思われる方も多いのではないでしょうか。
風がつくる吸引力はかなりのもので、例えば、走る車の後ろには風の渦(負圧になる、小さな台風(低気圧)ができていると考えると分かりやすいかも・・)ができ、その渦が車を後ろに引っ張るそうです。
高速道路を100kmで走る車は、その引っ張る力に負けないようにエネルギーの半分を引っ張られないようするために使うそうです。その為に、レーシングカーなどは前部だけでなく側面や後部にもいろんな整流の為の工夫がされているんですね。
建物の周囲にも風の渦(低気圧)が発生して、車を引っ張るように、建物を引っ張り、その結果、建物内の空気を引っ張り出していくことになります。ちょうど、霧吹きも同じ原理です。
次に、温度差です。
熱は、高い方から低い方に流れ、また周囲の空気温度よりも高い空気は周囲の空気よりも軽いことから上昇します。
真冬であれば、暖かい空気は上昇し、建物上部の隙間から低温の外に逃げていき、逃げた分、建物の下部から冷たい空気を吸い込むことになります。大きな傾向としてですが・・
隙間が多い建物の場合、直接、冷たい空気が下部から入り、尚且つ床面を這いながら流れる現象が起きやすいことから、特に足元が寒くなるということになります。
現実的には、暖房の種類や間取りなどその他の様々な要素が関係しますが、大きな要素としては風と温度差の両方の原理が同時に働くことになります。
気密性能による漏気量について
次に、実際に気密性能が建物の快適性や省エネ性にどの程度影響するものか確認してみましょう。
以下の設定条件のときの漏気量(建物内の空気が入れ替わる回数)と損失熱量及び実質のUA値を計算してみます。
ただ、漏気量をUA値に反映させることには厳密には無理があることになります。
今回は、「熱損失という意味での枠取り」として、UA値に置き換えてみましたのでご了承ください。
設定条件
建物の実質床面積120㎡、建物の体積312㎡、外皮面積300㎡、総合外皮熱還流率:UA値0.46W/㎡・K
季節設定は冬場:風速3.3mとし建物内外の温度差20℃(外気温度0℃、内気温度20℃)
👉参考1:気象庁のページより抜粋
風速1.6m~3.3m
顔に風を感じる、木の葉が揺れる
風速3.4m~5.4m
木の葉や細かい小枝が絶えず動く、軽く旗が開く
参考2:日本建築学会計画系論文集第512号39-44
住宅における換気量の簡易予測法のチャートを参照
C値5.0c㎡/㎡の建物の場合
※UA値0.46W/㎡・Kの建物でこのC値はないことと思いますが、ご参考までに・・・
漏気回数 0.5回
漏気量:156㎥/h(体積312㎥×0.5回)
損失熱量:1,092W(漏気量156㎥/h×容積比熱0.35wh/㎥K×温度差20K)
👉熱損失量をプラスした場合の実質UA値0.642W/㎡・K
C値4.0c㎡/㎡の建物の場合
漏気回数 0.4回
漏気量:124.8㎥/h(体積312㎥×0.4回)
損失熱量:873.6W(漏気量124.8㎥/h×容積比熱0.35wh/㎥K×温度差20K)
👉熱損失量をプラスした場合の実質UA値0.6056W/㎡・K
C値3.0c㎡/㎡の建物の場合
漏気回数 0.3回
漏気量:93.6㎥/h(体積312㎥×0.3回)
損失熱量:655.2W(漏気量93.6㎥/h×容積比熱0.35wh/㎥K×温度差20K)
👉熱損失量をプラスした場合の想定UA値0.5692W/㎡・K
C値2.0c㎡/㎡の建物の場合
漏気回数 0.2回
漏気量:62.4㎥/h(体積312㎥×0.2回)
損失熱量:436.8W(漏気量62.4㎥/h×容積比熱0.35wh/㎥K×温度差20K)
👉熱損失量をプラスした場合の想定UA値0.5328W/㎡・K
C値1.0c㎡/㎡の建物の場合
漏気回数 0.1回
漏気量:31.2㎥/h(体積312㎥×0.1回)
損失熱量:218.4W(漏気量31.2㎥/h×容積比熱0.35wh/㎥K×温度差20K)
👉熱損失量をプラスした場合の想定UA値0.4964W/㎡・K
上記のことから、C値1.0c㎡/㎡になって元々の設定UA値0.46W/㎡・Kに近づきました。
最近の傾向として、C値1.0c㎡/㎡以下を目指すという建築会社が多いのも頷けるところです。
今回の風速は3.3m/sとそよ風程度のものでの計算値ですので、もっと風が強いときなどは漏気量が増えます。
計算上は、風速が倍になれば漏気量も倍になります。
漏気の要因となる風速や温度差により影響を受けますので、ここでいう実質UA値は、常に上下に変動していることになります。
👉参考:風速3.3m/sで建物内外の温度差が20℃の設定の場合、C値が1.0c㎡/㎡変わる毎に、換気回数が0.1回変動するという見方ができます。
これからより快適で省エネの住まいにするために必要なこと
UA値は、ZEH住宅や認定低炭素住宅、長期優良住宅、住宅性能表示などの認定基準のひとつです。またその先では国の補助金を受領するための基準ともなっているとも言えます。
断熱性能や省エネ性能の基準が、「脱炭素社会」を目指すために設けられたものということであれば、「気密性能」によって、特に消費エネルギー量が評価基準とは合致しないものとなります。
モコハウスでは、ここが大きな盲点だと考えますが、いかがでしょうか?
そして何よりも、気密性能が「快適性」にも影響を与えるということが最大の盲点です。
家中いつでもどこでも温度差が小さくて快適温度を保ち、24時間換気システムもほぼ計画通り(隙間が多いと計画換気ができ難い)に働いてくれて新鮮な空気を保つことができ、そして環境にも人にも優しい、そんな住まいづくりが大切だと考えます。
最後に、再びきちんと気密性能の基準を設定し、本当の意味での断熱性能と省エネ性能を目指す業界になることを期待したいと思います。
長文でしたが、最後までお読みいただき有難うございました。